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電子書籍名言・引用まとめ

夢かたり 後藤明生・電子書籍コレクション (アーリーバード・ブックス)

後藤明生

Quotes List

小学校二年か三年のとき、「ストーブ」という題で作文を書かされた。兄とすぐ下の弟のものは学年代表で学校の文集に入ったが、わたしだけ入らなかった。わたしはこっそり弟の作文を読み、うまいと思った。ぼくのうちでは冬になるとストーブで甘酒を作ります。ぼくはストーブの前であたたかい甘酒を飲みながら絵本を読むのが大好きです。確かそういうことが書いてあった。はっきりおぼえているのは、おどろきとくやしさのために違いない。わたしの「ストーブ」は、ストーブの種類の羅列だった。ぼくのうちのストーブはフクロクストーブです。学校のストーブはダルマストーブです。その他いろいろなストーブの形と種類がずらりと並んでいた。たぶん家で売っていたストーブのカタログを見て書いたのだろう。わたしは文集に入った弟の作文をこっそり読み、自分のものは駄目だということがわかった。そして暗い気持になったのをおぼえている。

妻の悲鳴に似た声がわたしには余り気に入っていなかった。それもいまはじまったことではないのだ、とわたしは思った。少し大袈裟過ぎるような気がした。驚くのはよい。しかし一呼吸置いて声を出せないものか。これが火事ならば仕方がない。しかし相手は子供ではないか。驚くのは仕方ないが、子供を驚かす必要はないだろう。つまらないことでいちいち騒ぐな。取り乱すな。一呼吸というのは、一芝居ということである。小さな噓だ。子供の前でそのくらいの芝居がまだ打てないのか。わたしは腹の中で、次から次へとそんな雑言を吐き続けた。そしてあたかも自分が沈着大胆の男であるような気持になった。

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